『理科教室』新たな出発 (2016.4.)

『理科教室』新たな出発

「理科教室』編集委員会代表 鈴木健夫

 2016_04_rishitsu『理科教室』は、この4月号から、出版元を変更し、本の泉社からの発行となりました。2007年4月号から2016年3月号まで9年間、日本標準から発行してきました。日本標準や編集担当のオブラ・パブリケーションのスタッフの方々には、大変お世話になりました。

 この9年の間に、出版状況も教育を取り巻く状況も大きく変わりました。出版や教育のみならず、社会全体が激動の時期に差し掛かっている、といえそうです。その中で、私たち教師(もしくは教師になろうとしている方)一人一人が、何を大事にし、何を目的として毎日の教育活動に向かうのか、常に問われる状況だといえます。

 近年よく次のような話を聞きます。10年後20年後には今ある職業のうち半分以上がなくなってしまうと言われています。今の若者はそれに対応すべく、状況の変化に即応できる能力が問われることになる。だから知識を獲得するだけでなく、それを応用し表現する能力が必要とされると。しかし、職業の種類がどう変わろうとも、私たち一人一人が社会に求めることや、社会が市民にすべきことの本質は変わるはずがありません。それは私たち市民が平和に幸福に生活し、生きがいを持って暮らす社会を作っていくことであり、その本質に迫る職業である教師(教育職)がなくなるはずもありません。どんなにIT技術やロボット技術が進歩しても、変わらない価値観があり、それに迫る職業があります。そして、子どもたちに「生きる力」という抽象的なものや表現能力ではなく、この社会の本質に迫る知識や価値観を身につけて民主的な社会の一員となる基礎を作るのが教育の使命です。「理科」という側面からその教育の役割の一端を担うのが自然科学教育であり、そのための実践を研究していくのが科学教育研究協議会(科教協)であり『理科教室』です。

 科教協の研究の方向性として、授業で何をいかに教えるのかを追究してきました。「いかに」という方法論は具体的な毎日の授業を行うときに、目の前のこととして重要ですが、この「何を」の部分こそが、私たち教師の存在意義を問われ、教師としての価値観を問われるところだと思います。それを学習指導要領や教科書に丸ごとゆだねてしまうわけにはいきません。『理科教室』はそのような問題意識をもって読者とともに作り、それを広げてきました。

 これからも、本の泉社スタッフの力を得ながら、新たな編集体制で、みなさんの協力のもとに魅力的な誌面を作つていく決意です。今後も『理科教室』をよろしくお願いいたします。
(「理科教室」2016年4月号掲載「巻頭エッセイ」より転載)